各論文の日本語概要
Some asymptotic conditions of worldlines in Minkowski space
Minkowski空間における質点の世界線について数学的に扱った論文である。 まず時間的世界線(timelike worldline)の定義を正確に与え,それについて物理的に意味のある4つの漸近的条件を考えた。 (A:inertial permanency) 慣性時刻表示して定義域が実数全体. (B:proper permanency) 固有時刻表示して定義域が実数全体. (C:gamma finiteness) Gamma-factorが有界. (D:visibility) 任意の点を頂点とする光円錐と交わる. その4つについて相対論的不変性を証明し,さらに包含関係を調べた。 数学的にはMinkowski空間上の曲線の分類学ということになる。 物理的には特殊相対論での質点のasymptotic behaviorの分類と言える。 純粋に数学的な考察をした論文であるが,物理的にも興味のある結果だと思う。

Proof of the no-interaction theorem without Hamiltonian and Lagrangian formalism
Currieらによって提唱されたNo-Interaction theoremは 「質点系の運動量保存が相対論的に成り立つのは自明系だけである」 という内容のものであった。 これの証明は多数の著者によって様々な形で与えられたが,それらはLagrangianかHamiltonianの形式の上でなされたもであった。そのような仮定をせずに,プレーンな形で証明したのがこの論文である。(ただし4点系まで。) 証明の大きな特徴は次のように場合分けされて,示されているところである。 (2点系) 場合分けなし。 (3点系) 3点が同一直線上にない時と,ある時,で場合分け。 (4点系) 4点が同一平面上にない時, 同一平面上にあるが同一直線上にない時, 同一直線上にある時,で場合分け。 一般的な位置にある場合の方が証明は簡単である。 特殊な位置にある場合,purturbationによって仮定から得られる情報は減ってしまう。その代わりその特殊な位置に制限されるという条件が使用出来る,という具合になっている。5点系以上や一般N点系について証明出来るかどうかは,まだ不明で研究中である。多くの場合公理的に考えられている基礎的な定理であるが故に,このような簡素な仮定のもとに証明したことは価値があると思う。 数学的に見ても面白い問題である。

Action and reaction in sepcial relativity
ニュートンの作用反作用の法則は 相互作用の瞬時の伝達を意味するので,特殊相対論では成り立たない。 これを相対性原理に合うように一般化する方法は様々だが, ここではなるべく遠隔作用(action at a distance)という相互作用 の方式を保ちながら一般化を試みた。 瞬時の相互作用の代わりに光速度による相互作用を考え, 作用と反作用を結びつけた。 また存在が重要になる航行中の運動量(traveling momentum)と 角運動量(traveling angular momentum)を定義し, それに基づいて運動量と角運動量の保存則を導いた。 論文の後半ではこの形式とラグラジアン形式の両立可能性について 議論した。

Some asymptotic conditions of worldlines in Minkowski space II
Minkowski空間における時間的世界線(timelike worldline)に関し, 同名Iの論文に引き続いてさらに3つの漸近的条件を考えた。 (E:Endlessness) 世界線が端点を持たない. (F:Drawability of perpendicular) 空間上の全ての点から世界線に垂線がおろせる. (G:Acceleration vanishing) 世界線の固有パラメータによる2回微分(加速度)が漸斤的にゼロになる. この3つについて相対論的不変性を証明した。 さらにIと合わせて合計7つについて包含関係を調べた。

Constraints and reality conditions in the Ashtekar formulation of general relativity
1986年にAshtekarによって提唱された一般相対論の新しい記述方法は 特に量子化において有用であることが知られている。 ここではその古典的な応用を考えてみた。 Ashtekar形式は一般相対論を計量を使わずに記述する。 その時に束縛条件が簡単な形で与えられるのが大きな特徴である。 とくにその初期条件設定に重要な束縛条件と実数条件について論じ, 次のような結論を出した。 (1) 実数条件は束縛条件と同様に初期条件設定時に解かなければならない。 metric-realityとtriad-realityという2種類の実数条件があるが, その違いを式で表した。 (2) metricの形式では登場しないゲージconstraintの意味を明らかにした。 (3) 実数条件とゲージconstraintを同時に解くような変数を発見した。

Trick for passing degenerate points in the Ashtekar formulation
従来の数値相対論の方法であるADM形式と比較して, Ashtekar形式の特徴の一つに変数の逆数を含まないという特徴がある。 この特徴により縮退点(degenerate point)の扱いが可能になるのではないか, という予想(希望?)がある。 静的な縮退点の扱いをした論文はあるが, dynamicalな扱いで成功したものは未だ無い。 そこで縮退点のdynamicalな扱いを解析的と数値計算の両面から 扱ってみた。 結論は (1) Ashtekar形式と言えども縮退点にそのまま突っ込む計算は難しい。 (完全に不可能が証明された訳ではないが, 可能性があるのは非常に制限された形となる。) (2) Ashtekar形式のもうひとつの特徴である複素変数を用いて, 縮退点を避けるような計算方法を提案し, 実際の数値計算によってそれが可能であることを示した。

Symmetric hyperbolic system in the Ashtekar fomulation
Einstein方程式をD_t u =A D_x u+B (D_t, D_xは偏微分,Aは対称行列) という対称双曲型に書き直すと初期値問題のwell-posedness, 固有曲線の構成,数値計算のテクニックなどの点で利点がある。 これは従来の3+1分解の形式であるADM形式のもとで, 様々なsystemが提案されてきた。 Ashtekar形式で書かれたEinstein方程式はもともと 1階の方程式になっているので,正準変数のまま 対称双曲型で書くことが出来ることを示した。 Ashtekar形式のhyperbolic化は Iriondo ら( PRL. 79, 4732 (1997) ) によって提案されている。 これに比べ我々の結果は (1)対称性をエルミート行列として扱うこと, (2)実数条件との整合性を明らかにすること, (3)行列Aの固有値を求め伝播速度の議論に繋げること, という3点で改良している。

Asymptotically constrained and real-valued system based on Ashtekar's variables
Ashtekar形式を使って, 数値計算中に発生するエラーを減少させる効果のある Einstein方程式の発展システムを提案する。 これはBrodbeckらによって提案されたADM形式を使ったものをヒントにしている。 この論文のシステムでは,束縛条件の破れだけでなく,実数条件の破れを縮小していく システムを提案する。

No-interaction theorem without Hamiltonian and Lagrangian formalism: invariant momentum on null cones
前論文(GY, Proof of the no-interaction theorem without Hamiltonian and Lagrangian formalism )では, 「空間的超平面上にある運動量の合計が超平面に依存しない」 という運動量保存を考えて,各質点の世界線が直線になることを示した。 ここでは,その超平面上の仮定の代わりに 「過去のnull cone上にある運動量の合計がnull coneに依存しない」 という仮定をして,各質点の世界線が直線になることを証明した。 前論文と同じようにLagrangianやHamiltonianの形式をとらず, その存在は仮定しない。また証明も4点系までにとどまる。

Constructing hyperbolic systems in the Ashtekar formulation of general relativity,
アシュテカ形式を使ってアインシュタイン方程式の双曲型化する というテーマについて, 前論文[Symmetric hyperbolic system in the Ashtekar fomulation] に引き続き,さらに一般的に議論した。 3種類の双曲型 (I) 弱い双曲型, (II) 対角化可能双曲型, (III) 対称双曲型, を考え, それぞれについていくつかシステムを構成した。 それぞれのシステムで採用されるゲージ条件と実数条件について 議論し, 固有値を求めた。

Hyperbolic formulations and numerical relativity : Experiments using Ashtekar's connection variables
安定した数値計算を実現するために, 双曲型の偏微分方程式がどのような役割を果たすのだろうか。 Ashtekar形式をベースに, 弱双曲型,強双曲型,対称双曲型の各レベルで, 数値実験を行って比較した。 束縛条件の破れを計測しながら安定性を調べたところ, 強双曲型,対称双曲型が弱双曲型よりも安定的であることが認められた。

Hyperbolic formulations and numerical relativity II: Asymptotically constrained system of the Einstein equation
時間漸近的に,束縛条件が成立するように落ち着いていくような 発展方程式を作るシステムを作り,数値実験を行ってその効果を確かめた。 "λシステム"と呼ばれる既に提案したもの, それから"adjusted system”という新たに提案する束縛条件で 運動方程式を修正するシステムについて検討した。 束縛の破れが減衰していくポイントは,束縛条件の発展方程式の 固有値が負または純虚にすることである。 数値実験でそれを実証する。

Constraint propagation in the family of ADM systems
前論文で提案した、時間漸近的に束縛条件が成立することが期待されるadjusted systemを 数値相対論で標準的に用いられるADMおよび、conformal-traceless ADMに適用して、固有値や数値的効果を調べた。 また、Detweiler(1987) and Frittelli(1997)のシステムや、固有値評価との関係も調べている。

Adjusted ADM systems and their expected stability properties: constraint propagation analysis in Schwarzschild spacetime
前論文までに提案したadjusted systemを、 球対称時空に適用して、その取り扱い方や、 束縛条件の安定性を議論した。 Schwarzschild時空をはじめ様々な球対称の背景において、 束縛条件による運動方程式補正による安定性への効果を 系統的に調査した。

Advantages of modified ADM formulation: constraint propagation analysis of Baumgarte-Shapiro-Shibata-Nakamura system
アインシュタイン方程式を数値積分するのに有利だと言われているBSSN形式を, 束縛条件の発展を固有値解析することで, なぜ良いのかを説明した. またさらによくなるようにBSSN形式を改良したものも提案した.

Diagonalizability of Constraint Propagation Matrices
我々が一連の論文で提案している束縛条件の発展を固有値解析について, 発展の漸近的安定性を,0に収束,有限,発散の3つのレベルに分類し, そうなるための必要十分条件を,束縛条件の発展行列について解析した. その結果,発展行列の対角化可能性,特に0固有値に関する階数が 安定性に影響することが分かった.

Constraint propagation in N+1 dimensional space-time
従来の4次元時空モデルより高い次元の時空モデルは,様々な解釈を提供し,かつ異なるダイナミックな面を持っている. そのような最近の興味による高次元時空の数値相対論の研究のために,束縛条件の時間発展における振る舞いの次元の依存を調べる. N+1 Arnowitt-Deser-Misner進化方程式にはNに依存する物質項があります、しかし、束縛条件と束縛条件発展方程式は空間次元に不変の形式を持つ. これは我々が,4次元の場合のそうだったように,N+1次元数値相対論において, 安定性,正確さについての問題があることを示唆するものである. しかし同時に,従来の束縛条件発展方程式の解析が,高次元においても有用であることも 分かる.


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